混沌とする世界:国連の可能性、限界、改革

  • 2016.03.31 Thursday
  • 17:37
oshima  oshima2 oshima3

シリアを巡る地域紛争、難民、テロ、核開発、中国の軍事的台頭などなど。最近の世界はますます混沌として、有効な解決策が見つからない状態に不安感が増している。世界の平和と安全に主要な責任を有する国連はどうしているのか。そんな問題意識のもとに、第42回「絆サロン」(3月22日)では国連の事情に詳しい大島賢三さんに語ってもらった。元外交官で、国連事務次長、日本の国連大使(常駐代表)を勤められた大島さんほど高いレベルで幅広く国連の実務を担った人は我が国ではいない。
大島元大使の包括的で懇切な説明のお蔭で、国連の役割や限界、改革の難しさ、日本の目指すべき方向などが良くわかった。以下はその概要である。
 
(講演要旨)
最近の国際情勢は流動化してきたが、その背景にはパワーバランスの変化(米国の相対的地位の低下、中国の台頭、ロシアの復権など)、危機の増大(中東情勢の複合危機、イスラム過激主義等)、さらには解決の難しいグル―バル課題(気候変動、核拡散、テロ、難民、格差拡大など)がある。我が国は、中国、朝鮮半島などに絡む安全保障環境の変化に加え、国際的地位の低下に悩む。我が国にとって重要な中国は、共産党独裁体制を維持して中華帝国復活の夢をもって中華経済圏の確立、経済力・軍事力増強、海軍大国への道などに向かって着実に政策を進め、力づくで既成事実を作ろうとしている。中国は既存の国際秩序に挑戦するのだろうか。中国は四半世紀以上前からほぼ毎年10%以上の伸びで国防予算を増強してきた。
 
戦後70年間、国際政治組織としての国連と国際経済金融組織としての「ブレトン・ウッズ体制」が世界の秩序を担ってきたが、国連の役割と限界を見てみよう。国連は193カ国が加盟する唯一の普遍的な国際機関で、28の関連機関をもち、4万人以上のスタッフを擁する。その主要な任務は、国際の平和と安全の維持、経済社会開発、人道・人権、文化、環境、基本的自由などの分野に及んでいる。国連は主権国家の集合体であって世界政府ではないが、その存在意義には、国際社会の現実を映し出す鏡(不完全であっても不可欠な「国際公共財」)、国際世論・国際合意形成の場(総会決議、国連主導の国際協定等)、加盟国の行動に対する合法性や正当性の付与(安保理決議)、加盟国の国益と国際公益の調和を図る場などがある。制度疲労や限界もあるが役割を果たしている分野も少なくない。例えば、最近の世界の問題に対して、国連は次のような役割を果たしてきた。
・中東の複合危機→特別代表による仲介、難民等人道危機への支援
・欧州の難民危機→大量難民を抱えるシリア周辺諸国への支援
・国際テロ→総会決議、安保理決議による対応
・地域紛争・内戦→PKO派遣、平和構築支援
・経済格差・貧富の差の拡大→MDG/SDGなど開発戦略の策定
・地球温暖化→COP21(パリ協定)、ISDR(国際防災戦略)
・大量破壊兵器の拡散→核不拡散条約(NPT)、軍縮会議等
・北朝鮮の核・ミサイル開発→安保理制裁決議
・中国の覇権主義的動き、海洋進出(南シナ海、東シナ海)→?
 
国連のこうした活動に対しては、世界を巻き込む大戦争を防いできたことや国連の機関や個人が計18回のノーベル平和賞を受賞したことなどへの評価もあるが、安保理の機能不全や拒否権の存在への批判もある。しかし、過度の礼賛も無用論も避けるべきで、国連を活用できるところを活用し、現実的見地から強化・改革を図る必要がある。
こうした状況の中で安保理の改革が進められている。安保理は拒否権や様々な特権を持つ常任理事国5か国とそうでない非常任理事国10か国で構成される「格差社会」である。しかも、中東和平、ウクライナ問題、シリア紛争、南シナ海、北朝鮮やイランの核開発の諸問題などのいずれにおいても、いずれかの常任理事国の重要な国益が関わっているため拒否権が行使されるなどして、十分機能しない。安保理を改革する議論や試みは1990年代以降、何度か繰り返されてきた。国連憲章改正には総会の3分の2以上の加盟国による発議と批准が必要だが、常任理事国の拒否権という高いハードルがあるので成就していない。最近では2000年代の半ばに当時のアナン事務総長が「安保理改革なくして国連改革なし」と主張し、改革への大きな運動がおこった。改革の方向性は代表性の改善(=メンバーシップの拡大)、作業方法の改善、拒否権の扱い、効率性の維持などであった。当時自分(大島氏)は日本の常駐代表をしていたが、安保理メンバーシップの拡大のために日本とドイツ、インド、ブラジルの4か国(G4)が結束して安保入りを目指して世界的に改革運動を展開した。かなり進展があったが、結局挫折した。常任理事国は一致して拒否権にタッチすることに絶対「No」の態度を貫いた。日本の常任理事国入りについては、米、英、仏の常任理事国や世界の多数の国が支持をしてくれた。G4各国の常任理事国入りについては、ドイツに対してはイタリヤ、インドに対してはパキスタン、ブラジルに対してはアルゼンチンなど、当該国と同じ地域に属する近隣国が強く反対した。日本に対しては、中国や韓国が徹底的に反対した。大票田であるアフリカも大多数が日本支持だったが、「アフリカ連合」としてまとまりきれなかったなどの事情もある。
不成功に終わった2005年の安保理改革への努力はその後も続けられているが、その後妥協案もが浮上している。打開策はあるのか。それは、「準常任理事国」ともいうべき新タイプのカテゴリーを設け、これらの国の任期を長期にして再選可能にする案で、常任理事国の数を増やす「モデルA」案に比べ「モデルB」と呼ばれる。常任理事国を「ファーストクラス」とすればモデルBは「ビジネスクラス」を設けることではあるが、モデルAの実現性が乏しい中で検討に値する。
日本は近年財政や経済事情のため、国連通常予算分担率も下がり、かつて世界一だったODA(政府開発援助)実績額も世界5位になっているが、国連においては平和分野での積極的イニシアティブ、開発・人道分野での貢献、新しい課題を設定し取り組む先進国として各国から高く評価されている。発信力を強化して、安保理改革に取り組み、国連への一層の貢献を目指していくべきである。
 
(質疑応答要旨)
Q:モデルAとモデルB、また、中国による日本への反対についてさらに説明してほしい。
A:新しい常任理事国を増やすとしたら拒否権をどうするかが問題になる。多くの国が拒否権をなくせというなかで拒否権付きの新しい常任理事国創設には反対が多い。妥協案として、新しい常任理事国が15年間拒否権を行使しないとの妥協案もある。インドは拒否権付きの地位を主張しているが、モデルBでは「ビジネスクラス」に座る国に拒否権は与えられない。各国の思惑が強く、なかなか合意が難しい。中国は常任理事国の地位を絶対守りたいし、同じ地位を日本に与えたくないのである。背景には、戦争で日本から多大な犠牲を強いられたので加害者である日本が常任理事国になるのに反対する感情があるのだろう。日本が常任理事国ではない何らかの地位に就くのであれば妥協の余地があるのかもしれないが、よくわからない。
Q:長い間PKOが行われているが、あまり改革が見られない背景は。
APKO活動は国連憲章に明記されてはいない重要な国連の活動であるが、いくつか問題があるのも事実である。パキスタン、バングラデシュ、インドなど途上国が数千人単位で多くの兵士をPKOに派遣している。国連による兵士への手当ても途上国の水準では悪くないこともあるが、派遣された兵士がセクハラなどの問題を起こす例もある。先進国からの兵士派遣数はあまり多くない。本来、紛争地で当事者間に停戦合意があり、その遵守を維持・監視する役割があるが、近年は紛争が終了しきれない状態のところにも派遣せざるを得ない場合も多く、犠牲者が出る危険な任務である。日本については、派遣人員数は少ないが財政的には大きな貢献をしている。ただ、武器使用について、これまで自分の身を護る場合にのみ使用を許されるが、任務遂行のために武器使用が認められる国連の常識と乖離している問題もある。改革が議論されてはいるが、派遣国の利害調整の問題や厳しい条件を課すと派遣する国が減ったりするので、改革はまだ大きな進展はない。
Q:韓国が国連の人権委員会などで従軍慰安婦の問題をとりあげた。国連で日本批判をする市民団体の状況はどうか。
A:詳細は不明であるが、中国などの団体でそのようなことをすることがあっても驚くべきことではない。国際社会で日本を貶めようとする団体は材料があれば何でもやる。日本はそういう行動にもっと発信力を高めて対応する必要がある。
 
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